【開催報告】対大澤昇平氏 判決報告会

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日時:2021年7月6日(火)20:00-20:40

場所:zoom ウェビナー

虚偽の内容のツイートで名誉を毀損されたとして、伊藤詩織さんが大澤昇平さんに対し損害賠償を求めていた民事訴訟で、東京地裁は7月6日、大澤さんに慰謝料など33万円の支払いと投稿の削除を命じました。同日20時より支援者に向けた報告会をオンラインで行いましたので、ご報告いたします。

当日はこの裁判を担当された山口弁護士、西廣陽子弁護士に登壇いただき、対大澤昇平氏の判決について解説いただきました。また伊藤詩織さんから、今回の判決を受け支援者の皆さんへ向けてお話いただきました。


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当日行われました山口元一弁護士による判決の解説を掲載いたします。

判決概要について解説くださり、裁判所による損害の認定について補足いただきました。

お話:山口元一弁護士

【判決の概要について】

 

何を求めていたかということですが、大澤さんがした「偽名じゃねーか」という書き込みとともに、伊藤詩織さんという通名を用いている中国人の方が破産した官報公告をスクショで掲げたツイートについて、偽名という部分ではなく、破産をしたという摘示について名誉毀損として、損害賠償と削除を求めたものです。

 

今日の判決については、削除の請求と損害賠償、いずれもが認められたという概要になっております。

 

肝心の内容についてですが、同姓同名の別人物が存在するから、あるいは多くの人がツイートの内容をデマだと認識していたから、伊藤さんの社会的評価をこのツイートが下げることはないという向こうの主張が排斥されたということ。

それからこのツイートが悪質だと主張した内容、5つほどありますが、それら全てを拾って、1回限りのツイートではあるけれども、悪質であるという風に認定された。

その点については、全部認められたということで、内容には満足しています。

 

金額について、100万円プラス10%の弁護士費用、110万円を請求したところ、33万円という判決の金額だったのですけれども、この点について、少し解説しますと、そもそも大澤さんがしたこのツイート1つが特に問題だという認識ではないのです。

 

つまり同じようなツイートをされた方は何千人、何万人といういらっしゃるわけで、本来であれば、その全員について損害ということで、賠償を求めないといけないが、なかなかそれは物理的にも時間的にも無理なことなので、その中で大澤さんを被告として選択したうえで提訴したということ。

 

もちろん大澤さんを相手にしているわけで、大澤さんのツイートは悪質ですけれども、大澤さん1人が悪い、大澤さん1人が精神的に傷つけたと認識しているわけではないので、金額の多寡の部分をこの裁判だけにスポットライトを当てて、多い少ないと議論するのはナンセンスだと思っています。


 

【裁判所の認定について】

(名誉毀損として認められないという相手方の反論は、すべて否認されたということでした。ツイートが悪質かどうかという点について、山口弁護士が損害について論じた判決の一部を読み上げて解説くださいました。)

 

「●本件ツイートは、それ自体原告の経済的信用を毀損し、その社会的評価を低下させるものであるところ、その裏付けであるかのように官報公告記事の画像を転載するなど、読者の誤認を殊更誘引する演出を加えたもので、悪質であること、

 ●被告は本件ツイートの理由を自ら説明しないが,原告を名指しで中傷する態様でなければ名誉毀損とならないという趣旨の先行ツイートを踏まえると、本件ツイートでは、あえて原告とは別人である者を対象とする表現行為の体裁を用いて、先の持論のもと名誉毀損とはならないとする方法を実践したことがうかがわれ、そうであるとすれば身勝手な動機に基づくものと言わざるを得ないこと、

 ●この点をおいても、被告の一連のツイートから、被告は原告の別件名誉毀損訴訟に反感を抱いていることを繰り返し表明した上で、本件ツイートに及んだもので、原告に対する攻撃の一環であると認められること、

 ●被告が本件ツイートを発信したアカウントは令和2年7月2日時点で約1万8,000人のフォロワーを擁していたもので、本件ツイートの社会的な影響は小さくないこと、

 ●被告は、本件の提訴報道後、ツイッター上に「伊藤詩織とかいう活動家が突然俺を訴えると言い出した。正直全く意味が分からない。」、「俺は断固抗戦する。」、「【悲報】伊藤詩織、裁判前に一方的な会見を開き世論を味方に付けようとするも、反応が真逆で大失敗してしまう。」などと投稿し、原告に対する攻撃的な姿勢を軟化させていないこと、以上の事情が認められる。

 

 そうすると、本件に現れた諸般の事情に鑑み、本件ツイートが1回の投稿にとどまることを考慮しても、原告に与えた精神的苦痛は軽視できないもので、原告に対する慰謝料の額は30万円が相当であると認める。」

 

 このような判決文となっています。つまり大澤さんに関しては、ツイートの内容がまず悪質であること、動機が悪質であること、さらにフォロワーが多く社会的影響力が大きい点、提訴後も相変わらず誹謗中傷を繰り返していること、そうしてみると1回破産の官報公告を貼り付けただけであったとしても、原告に与えた精神的な苦痛は軽視できないという書き方をしています。

                

(伊藤詩織さんのコメント)

 私が受けた性被害のトラウマは、年月が経っても日常を容赦なく揺るがす経験でした。そんな中、少しでも前を向き、生きようと日々、歩みを進めています。誹謗中傷はそんな私の足を止め、先に進むことを、存在することを否定するようなものばかりでした。この暴力的、否定的な言葉は私個人だけではなく、同じような経験をした人も同様に傷つけ、声を奪います。

 最初の会見でもお伝えしたように、この訴訟を提起した目的は、こんな思いを他の人には経験してほしくないからです。次の世代に引き継いでいってほしくない、私たちの世代で終わりにしたい、ということでした。

 

 今回、誹謗中傷に関する初めての判決言い渡しがあり、こちらの主張のすべてを認めていただいたことについては満足しています。

 支えてくださった皆さまに心からお礼を申し上げます。この判決が、ネットの誹謗中傷を無くすための一助になることを心から願っています。

                

 

【山口元一弁護士による補足解説】

 

本件訴訟の損害賠償額と訴訟費用に関し、山口元一弁護士より補足の解説をいただきましたので、下記に掲載いたします。

 

 (1) 不法行為による損害賠償請求に関して、加害者の行為が強い非難に値すると認められる場合に、被害者がこうむった損害にくわえて、加害者に対する懲罰として賠償を上乗せする制度(懲罰 的損害賠償制度)を採用する国があります。しかしながら、日本の民法における不法行為は懲罰的な内容を含む制度とはなっていません。したがって、SNSの誹謗中傷が名誉(社会的な評価)や名誉感情(侮辱されたと感じる気持ち)を傷つけたと認められても、損害は被害者が被ったと認められる範囲に限られます。

 

 (2) 1回限りのツイートが名誉毀損、侮辱であると認められる場合、裁判実務の「相場」は5万円から10万円程度です。当該ツイートによる社会的な評価の低下が著しい場合、侮辱の程度が激しい場合は、この基準から加算されます。また加害者に対する「懲罰」ではないものの、加害者の態度の悪質さが被害者の感情を傷つけるなど被害の程度を大きくしていると認められる場合も、加算の方向で考慮されます。またツイッターのフォロワーが多数いる場合は、評価の低下する範囲が広くなるため、加算の要因になり得ます。

 (3) 近時の裁判例で、広く報道された事件で、1回限りのSNSの投稿による損害が30万円と認められたものとして、以下があります。

 ① 元大阪府知事の橋下徹氏に対して「30代で大阪知事になったとき、20歳以上年上の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」とするツイートをジャーナリストがリツイートした事案(30万円+弁護士費用3万円)。

 ② あおり運転を行ったうえ、あおり運転の被害者である運転手を殴打してけがを負わせるという事件において、加害者の車に同乗し携帯電話で暴行の様子を撮影していた女性、「ガラケー女」であるとのデマを書き込んだツイートを、元市議が、フェイスブックに女性の顔写真とともに引用した事案。被害女性のインスタグラムには1000件を超える誹謗中傷のメッセージが届いた(30万円+弁護士費用3万円)。

 (4) 私は、SNSの誹謗中傷に関して裁判実務の「相場」は低いと思います。また、私は大澤氏のツイートにより伊藤さんの受けた損害を軽視するものではありません。しかしながら、①他人を自 殺に追い込んだとする摘示、②社会の怒りを買った事件の共犯者呼ばわりし、多数の誹謗中傷を誘 発した摘示と、③ネットで拾った「破産した」という摘示(しかも①、②と比較すると虚偽であると知るのも難しくない)を、社会的な評価がどれだけ低下したか、という観点から比較した場合、①、②に比べて③の方がまだ軽いといえるのはないでしょうか。

 私たちは、本件、当該ツイートにより社会的評価がどれだけ低下したかのみを観察すれば、裁判 所の相場としての損害額は5~10万円であったところ、(a)大澤氏の動機、表現、ツイート後の態様がいずれも悪質であること、(b)これまで酷い誹謗中傷に晒されている伊藤さんの苦痛が、そうした経過がない人に比べて大きいことを考慮して、30万円と認定されものと理解しています。判決が、大澤氏の弁解をすべて排斥したうえで、ツイートの悪質さをひとつひとつ挙げ「本件に現れた諸般の事情に鑑み、本件ツイートが1回の投稿にとどまることを考慮しても、原告に与えた精神的 苦痛は軽視できないもので、原告に対する慰謝料の額は30万円が 相当であると認める。」と結論づけたのは、その趣旨です。

 

 (5) 訴訟費用について伊藤さん7割、大澤氏3割の負担となっていますが、それは100万円の請求に対して30万円が認められたことを機械的に表現したに過ぎません。「訴訟費用」の主要な部分は 印紙代と郵便切手代で、弁護士費用は含みません。印紙代と郵便切手代は、他の事件の原告と同様に、伊藤さんが提訴に際して自ら負担しています。大澤氏に3割負担させるとは、既に伊藤さんが支払った印紙代、郵便切手代の一部を大澤氏に請求できるということです。なお訴訟費用には双方代理人の出頭日当、書類作成提出費用など複雑かつ少額な項目が含まれます。


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(山口元一代理人弁護士のコメント)

 ① 同姓同名の別人物が存在するから、多くの人がツイートの内容をデマだと認識していたから、伊藤さんの社会的評価が低下していないという主張が排斥されたこと、

 ② 官報公告の画像を引用するなど読者の誤認をことさら誘引する手法が悪質と評価されたこと、

 ③ 名指しで中傷しなければ名誉毀損にならないという独善的な解釈が身勝手と評価されたこと、

 ④ 18000 人のフォロワーをもって社会的な影響が大きいと認められたこと、

 ⑤ 提訴後も原告に対する攻撃的な姿勢を維持している態度がマイナス評価されていること、

 

 など主張のすべてが認められている点については満足している。

 

 損害賠償額はもっと高額であるべきだったが、ネット、特にTwitter 上の中傷は、個々のツイートがそれぞれ悪質という点とは別に、誹謗中傷が多くのユーザーの目に触れることによってリツイートやコピーされるなどして新たな誹謗中傷を呼び、いわば大量の誹謗中傷となって被害者に襲いかかり、大きな苦痛を与える点に問題がある。

 本件でも、同種のツイートをしたのは大澤氏だけではないし、多くのユーザーが大澤氏のツイートをRT している。代理人は、判決が、ネット上の誹謗中傷を許さない社会への一助となることを願っている。


                

 私たちにできるのは、勇気をもって名乗り出た伊藤さんを孤立させずに、共に声をあげることです。性暴力や性犯罪、誹謗中傷の被害が起こらない社会を実現するために、今後も私たちは「#MeToo」そして「#WithYou」の声を絶やさず、引き続き伊藤さんに寄り添っていきたい。また同じような苦しみや困難を抱えた人と共に歩んでいきたいと願っています。いまも伊藤さんは複数の裁判を控えており、裁判の長期化により支援者の皆さま方からの支援を必要しております。

 引き続きご支援のほど、どうか宜しくお願い申し上げます。